星詠

久しぶりに、動物達も連れず夜の散歩に出てみた。

夜風が優しく髪を撫でる。
ついこの間までのような熱気をはらんではおらず、今は心地よく通り抜けていく。

適当な場所を見つけて座り込んで、耳を傾ける。
聞こえてくるのは虫の声、風の吹く音…ただ、それだけだ。
これだけ静かなのは久しぶり、だとおもう。

…今はもう、あの音は聞こえない。

静かで、それでいて懐かしく…多分子守唄。
時折思い出したように流れては…心をかき乱される。
不安と悲しみがない交ぜになって、つい周りが見えなくなってしまう…

昔聴いた歌なのか、記憶のない今となっては分かるはずもなく、題名も何も知らない。
分かるのは歌い手の声のみ。
歌い手はきっととても優しい人で、歌の意味を分かって歌っているから…こんなにも悲しくなるんだと思う。

いつか歌詞の意味が分かれば…こんな気持ちから開放されるのだろうか。
これは、旅の中の目的の１つでもあり、しなければならないと本能的に感じている。

…いまだ見つけた記憶の欠片はほんの少し。
手で握れば、潰れてしまうようなその最初の欠片は、８年前思いがけず手に入れたもの。
今までにないくらいの悲しみと引き換えに手に入れた、忘れてはいけないもの。

ここにわたって来てから歌はどんどん強くなっている。
もしかしたらここに…たくさんの欠片があるかもしれない。
不安はあるけど、それでも…大事な約束をしたから。そのために。

小さく、小さく歌いだしたのは静かながらも夜空に響く旋律。
星を読む一族が、消えてしまいそうな星に捧げた祈りの歌。

どんな先が待ち受けていようとも、ここにあり続けるために。
そんな思いを込めて。

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歌い終わると、気持ちはすっかり静まっていた。
すっきりとした、という表現のほうがあっているかもしれない。
もう、曇った表情もない。

「さて…、動物達散歩に連れて行かなくちゃねー」

そういって、うーんと伸びをしてから家路へとつくことにした。
また、いつもの生活を始めるために。